成熟した味覚は小豆へ向かう

鯛焼き, taiyaki

和菓子の輪郭が、少し変わってきた。ホテルでは和のアフタヌーンティーが定着し、モダン和菓子の店には海外からの旅行者も訪れる。小豆や和三盆は、古びた甘味ではなく、都市の洗練として見直され始めている。

それは単なるブームというより、刺激から余韻へ、感覚の重心が移りつつあることのあらわれなのかもしれない。

和菓子の静かな美しさは、なぜいま新鮮に見えるのか

和菓子がモダンに解釈され得るということを、ずいぶん前の雑誌編集者時代に知った。

研ぎ澄まされた空間にジュエリーのように端正に並べられた、息をのむほど美しい意匠。バターやチョコレートといった洋の素材を取り入れ、和として解釈する大胆さ。

伝統芸ともいえる和菓子の世界を、こんなふうに編集することができるのか。都市の中で今を生きる人のためのものとして。その発見は、長く記憶に残った。

和菓子にはもともと、過剰に消費しないという感覚が組み込まれている。

ひとつの菓子は小さく、季節の気配をまとっている。そこでは、どのように差し出され、どのように受け取り、味わうかが大切にされている。

目で楽しみ、季節を感じ、必要な分だけを丁寧に楽しむ。その静かな節度は、quiet luxury と呼ばれる今のラグジュアリー観ともどこか重なる。

そこには見せるためではなく、自分の感覚を整えるための豊かさがある。効率や刺激を追い続けた時代のあとに、和菓子のたたずまいが再び新鮮に感じられるのは、そのためかもしれない。

年齢を重ねて、初めてわかる甘さがある

和菓子の素材のなかでも、小豆は、私たちにはあまりに身近すぎるかもしれない。抹茶が世界の主役に躍り出た一方で、ずっと日陰の存在だったということもある。

しかし今、その実力がようやく見直され始めているようだ。

東京・恵比寿に、ひいらぎというお気に入りの鯛焼き屋がある。薄く焼かれた皮は香ばしく、割るとたっぷり入ったあんこの香りが立つ。

改めて食べてみると、あんこがこんなに滋味深いものだったのかと驚く。子どもの頃には気づかなかった何かが、今になって、ようやく響いてくる。

小豆はいまだに世界には理解されにくい味かもしれない。甘い豆、というところが、まず関門になるからだ。

抹茶が海外で受け入れられたのは、視覚的にも文化的にも日本らしさを伝えやすかったからだ。ラテやアイスクリームに変換されても、抹茶は抹茶であり続ける。

一方、小豆はもっと説明を必要とする。豆を甘く煮るという発想そのものが、文化圏によっては直感的ではない。ひと口で強い印象を残す味ではないからこそ、少し時間をかけて近づく必要がある。

けれど、そのわかりにくさの中にこそ、小豆の魅力がある。

若い頃は、甘さにもわかりやすさを求めていた。食べた瞬間に満たされることが、ひとつの快楽だった。けれど年齢を重ねるにつれ、あとに静かに残る味のほうに、深く満たされるようになってきた。

小豆の甘さがそうだ。強く主張するわけではないのに、しばらく経ってからたどり着き、ほのかな苦みすら感じられる。

食べた瞬間よりも、少し遅れてやってくる甘さ。その曖昧な速度を受け止められることもまた、成熟のひとつのかたちなのかもしれない。

English Summary

In Tokyo, wagashi is being quietly reimagined — not as nostalgia, but as a new kind of urban sophistication. The shift points to something broader: a collective move away from stimulation, toward resonance.

Wagashi has always embodied a quiet refusal of excess. Small, seasonal, unhurried. That restrained sensibility now speaks the same language as what we call quiet luxury.

Matcha travels well. Anko does not — the idea of a sweetened bean remains a barrier in much of the world. Its appeal is harder to explain, its sweetness slower to arrive. But that may be precisely the point.

Some flavors reveal themselves only with time. Mature taste does not seek intensity. It learns to wait for what lingers — and finds, in that waiting, something quietly joyful.

Illustration by Masantocreative