2025年12月、ミシュランがワイン生産者を評価する新しい指標「ミシュラングレープ」を始めると知った。レストランには星、ホテルには鍵、そしてワインには葡萄。最初の対象地域がブルゴーニュとボルドーであることも、五つの評価基準も、そのときすでに公表されていた。
それから半年余り、私は最初の結果が出るのを待っていた。
2026年7月7日、フランス・ブルゴーニュ地方のディジョンで、初の「ミシュラングレープ」セレクションが発表された。10日後の7月17日には日本語版のリリースが公開され、ブルゴーニュの94軒のワイン生産者が初のセレクションに選ばれた。最高評価の3グレープが9軒、2グレープが20軒、1グレープが33軒。さらに32軒が「セレクテッド」として紹介されている。
ミシュラングレープが評価するのは、特定の一本のワインではない。対象になるのは生産者である。
ブドウの樹や土壌の状態、醸造技術に加えて、土地や文化を反映したアイデンティティ、複数のヴィンテージにわたる一貫性までを見る。良い年に生まれた一本の完成度だけでなく、年ごとに異なる条件のなかで、造り手がどんな仕事を続けてきたかを評価しようとしているのだ。
今回の発表で、ミシュランは「卓越性が名称や知名度だけで決まるものではない」としている。代々続く家族経営のドメーヌだけでなく、比較的新しく立ち上げられたドメーヌも同じセレクションに並んだ。ブルゴーニュという土地の伝統を守ることと、変化していくこと。その両方を見ようとしているのだろう。
ワインの評価と聞いて、まず思い出すのはロバート・パーカーである。
白か赤か、泡が出ているか。その区別しかつかなかった2000年代の初め、当時所属していた雑誌の編集部で、ワイン特集を任されたことがある。そこで社内のワイン勉強会の門を叩いた。知識を詰め込む場ではなく、「好き、苦手の感覚を大切にする」ことを方針にした勉強会だった。
少しずつワインを知るうちに、パーカーポイントの存在を知った。当時から賛否はあった。それでも多くの人が「これはパーカーポイント○点」と口にするのを聞いた。自分の舌より先に、数字が共通言語として届いてしまう。そういう時代だった。
いつからか、その数字を聞かなくなったと思っていた。今回調べていて知ったのだが、ミシュランは2017年に『ロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケイト』の株式40%を取得し、2019年には同媒体を完全に傘下に収めている。
つまり、ミシュランはワインの評価に突然乗り出したわけではない。一本のワインを100点満点で評価する方法が持つ影響力を知ったうえで、今度は生産者全体を1つから3つの葡萄で示そうとしているということだ。
これは、ワインの評価が「1本の完成度」から「造り手の物語」へと広がろうとする動きにも見える。
けれど、そこでひとつ気になることがある。畑の状態を見て、複数年のワインを味わい、その土地の個性や造り手の仕事を読み取る。そうして受け取った複雑な物語が、私たちの前に現れるときには、葡萄の数になっているからだ。
物語を見ようとする評価が、最後にはまた記号になる。
とはいえ、それを矛盾ととらえる気にはなれない。ガイドとは、複雑な世界にわかりやすい目印をつけるものでもある。星をきっかけに知らなかったレストランを訪れ、鍵を見て旅先のホテルを知るように、葡萄の印から初めて出会う造り手もいるはずだ。
ただ、目印は入口であって、答えではない。葡萄の印の有無や数だけを頼りに選ぶなら、ミシュランが見ようとしたはずの土地や時間は、また記号の陰に隠れてしまうだろう。
けれど葡萄の印の横にあるドメーヌの名前を開き、その土地や造り手について少し読んでみるなら、それは答えではなく入口になるだろう。
葡萄の数を記号のまま受け取って終わるのか、その先の物語まで思いを馳せるのか。その先は、選ぶ私たちのまなざしに委ねられている。


