無限を生きるための400ページ 『草間彌生 1945年から現在』

The artist in Infinity Mirror Room

《無限の鏡の間‒‒ファルスの原野》に立つ草間彌生
The artist in Infinity Mirror Room
Image credit © YAYOI KUSAMA
© YAYOI KUSAMA edited by Doryun Chong and Mika Yoshitake published
by Seigensha Art Publishing 2026.

ひとりの作家の歩みを、作品だけでなく、言葉、資料、時代の記憶とともにたどること。アートブックには、ときに展覧会以上に長く残る力がある。ページをめくるという行為は、作品を見るだけでなく、ひとつの人生がどのように世界と交差してきたかを読み直す時間でもある。

青幻舎より、『草間彌生 1945年から現在』が刊行された。本書は、2022年から2023年にかけて香港の視覚文化美術館M+で開催された大回顧展「Yayoi Kusama 1945 to Now」の公式図録の日本語版である。その後、同展はスペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館、ポルトガルのセラルベス現代美術館へと巡回した。

『草間彌生 1945年から現在』
『草間彌生 1945年から現在』(青幻舎)

書名が示す通り、起点となるのは1945年。戦後から現在まで、草間彌生という作家がどのように自らの表現を押し広げ、世界の美術史の中に独自の場所を築いてきたのかを、400ページにわたってたどる構成となっている。

本書では、作品群を「無限」「集積」「バイオコスミック」「ラディカル・コネクティビティ」「死」「生命の力」という6つのテーマに分けて紹介している。初期のドローイングから、〈無限の網〉などの代表作、近年の大型絵画シリーズ〈わが永遠の魂〉まで、300点を超える図版を収録。絵画、立体、インスタレーション、映像、パフォーマンスといった多様な表現を通して、草間作品に繰り返し現れるモチーフが、時代ごとに形を変えながら立ち上がってくる。

「無限」「集積」の章より
「無限(Infinity)」「集積(Accumulation)」の章より

図版だけでなく、資料としても充実している。草間自身によるエッセイ、詩、ステートメント、小説などを抜粋した「著作選集」、詳細な年譜、草間の展覧会を手がけてきた世界のキュレーターによる鼎談も収録。若き日のジョージア・オキーフとの往復書簡や、ニューヨーク時代のステートメントなども含まれ、作品と人生、そして言葉が互いに照らし合う。

ジョージア・オキーフとのやりとりは、草間がアメリカでの活動を模索していた時期のものだ。まだ世界的な存在になる前の若い作家が、海の向こうの先達に宛てた言葉からは、より広い場所へ向かおうとする意志がにじむ。

草間彌生からジョージア・オキーフへの手紙
草間彌生からジョージア・オキーフへの手紙を収めた「Selected Writings」

草間彌生は、孤独、不安、身体、死、生命力といったものを、人生をかけて造形へと変えてきたアーティストだ。年齢を重ねることは、表現の終わりに近づくことではない。時間の蓄積そのものが作品の深度になっていくことを、この図録は圧倒的な作品群によって伝えている。

Images courtesy of Seigensha Art Publishing.
Information: 青幻舎『草間彌生 1945年から現在』